正直、ウィカフが生きていた時も私に何かを隠しているんだろうなってことは何となく感づいていた。とても長い年月というわけではないけれど彼女とは濃い時間を過ごしていたから。今思えばなぜ私はその時彼女に踏み込めなかったのだろうか、と後悔してやまない。彼女がおかしくなったのは明らかにちくわ法の成立後じゃないか!!!

 あの時彼女に話を聞いていれば、ちくわの話を事前にできていたら、私も一緒に背負ってあげるよと言ってあげることができれば、と考えれば考えるほど負の感情がどんどんとわいてくる。

 

 ただ、そうも言っていられない。私は今、この忌々しい事件のカギを握っている奴のアジトの前にきている。アジトといってもぱっと見はただの喫茶店だ。夜にはバーもやっている。ここには彼女が生きていた時も時々来ていた。「私のお気に入りの店があるんだけど来ない?」といわれて連れてこられたのが最初だった。

 ちくわの中身をのぞいた時、私はある種の興奮状態になっていた。英知を授かったとも、気力があふれ出んばかりになったともいえる。この二つは一見何のつながりもないような気がするが、確かにその時私はこれらを感じたのだ。そこまで長い間覗いていたわけでもないのにこの調子である。もっと長い間覗いていたら一体どうなっていたことか。

 カギを握っている奴というのはここのマスターのことだ。気分が落ち着いてしまった今の私では具体的な説明が難しいが、あの時にわいてきた知識や脳に眠る記憶をたどっているうちにウィカフとマスターの会話があったことや、その会話が行われていた日程やその時に注文されていたものにはある程度の規則性があったということにたどり着いたのだ。

 

 このドアを開けたら、何かがつかめるのだろうか。

 

 私はドアのレバーに手をかけた。