親野はちみつ

「ふぅ!これで4体目!」

私はフランスパンの化け物を切り捨て独り言ちた。 これも朝飯戦争の余波なのだろうか、さっきからフランスパンの化け物が暴れているのをよく目にする。 そのせいで道はがれきだらけだし逃げ惑う人やフランスパンの化け物と戦う異能力者やで大混乱といったありさまだ。

フランスパンの化け物の大きさはさまざまで大きければ大きいほど強いように感じる。 2m程度のフランスパンならはちみつ刀で一刀両断して終わりだが 10mもあるやつなんかは再生能力があり四肢切断だけでは倒しきれずはちみつ落としまで使わされた。 1対1なら余力を残して対処できるが10、20と数を増すと厄介だなと思いながら走る。

さっきJINEで世界的にフランスパンが出現していることを話したら ゴリラ君からそれをなんとかできるかもしれないからみんなに家に来てほしいと言われ、 今向かっている最中だ。

視界に入ったフランスパンをすべて切り捨てながら進んでいるせいか 思ったより時間がかかってしまっている。 でも暴れているフランスパンを放っておくこともできないから難しい話だ。

適当にフランスパンを討伐しながら移動しているとフランスパンの怪物と戦っているらしい今田さんを見つけた。

ヘリコプターのなかでは今田さんの蛇に噛まれて毒で気を失っちゃったらしいけど 今のはちみつをまとっている状態の私なら蛇の牙なんて通さないしはちみつを舐めていれば毒も怖くない。

一緒にゴリラ君の家に向かうためにさっさと倒しちゃおう。


~Side 今田路巳~

えー、こちら西剛理羅君の家に向かう途中で運悪くフランスパンの化け物と遭遇してしまい やむなく戦闘中の今田路巳であります。って誰に説明してんだか。 西剛理羅君によるとフランスパンの化け物はすごく強いらしいから戦わないでほしいって話だったけど 今、本当に、心から、後悔してる。 私たちの人生(&ヘビ生)はここでついえてしまうのかもしれない。

「ナコちゃん!今!」

アナコンダのナコちゃん。6m級の体長を持つ私の友達の中でも一番強い子だ。 そんなナコちゃんが全身に巻き付いてもそれを力ずくで振りほどいてこちらに迫ってくるフランスパンの化け物。 これは勝てませんわね。オホホホ。 もう逃げたいやら死にたくないやらで心がぐちゃぐちゃだ。誰でもいいから助けてほしい。 そう考えながら必死に逃げているとどこか気の抜けた聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「とぉ~りゃ~~~!!」

ドシャァッ!

「え......?」

私が振り返るとそこには真っ二つに分かれたフランスパンの化け物と黄色い粘液を全身に纏った人型の化け物が。

「ピェ~~~~~~~~~」

化け物が倒されたと思ったらもっと変な化け物が出てきた。 また泣きながら逃げようとすると新たに出現した化け物から声をかけられた。

「今田さん!わたしわたし!はちみつだよ!」

本当に八光さんみたいな声だとおもってもう一度目をやると 黄色い粘液(おそらくはちみつ?)から顔を出している親野八光さんがいた。

「え?............え!すごい!フランスパンの化け物を倒せるの?!」

「まぁね!これでもわたし 超越級(イクシードクラス) の能力者だから」

「イクシード?!?!」

「そうそう」

八光さんがイクシードクラスのの能力者なんて。すごい。びっくりだ。 異能力はその強さによって弱い順に 通常級(ノーマルクラス)優位級(スペリオルクラス)災害級(ハザードクラス)超越級(イクシードクラス) に分かれている。 一番上のイクシードクラスは世界でも数えるほどの人数しかおらず、 その力は小さな国なら1人で滅ぼせてしまうほどだと言われている。

八光さんがそんなにすごい能力者だったなんて思いもしなかった。 ヘリコプターではステちゃんの毒を受けて倒れていたしとてもそうは見えなかったが 目の前であんなに強かったフランスパンの化け物を一刀両断されてはそうも言えない。

なにより私とヘビちゃんたちが助かったのだ。 本当に感謝になくてはならない。

「八光さん、ありがとね。私たちだけだったら負けちゃってたよ」

「いいよ。別に対して手間でもなかったしね。 それよりはやくゴリラ君のところに行ってこのフランスパンたちを何とかしなきゃ!」

「そうだね。でも私たち今まで逃げてきてちょっとどころじゃなく疲れてるからちょっと休憩してもいい?」

「う~ん。はやく行きたいしわたしのはちみつ飲んでよ! これさえ飲めばどんな傷だって一発で回復しちゃう代物だよ!!」

「そ、そう?じゃあ一口だけ.......」

そう言って差し出された八光さんの人差し指から流れるはちみつを舐める。 すると、今まで感じていた疲労感が溶けて消え、体の底から力があふれ出てくる。 それに加え今の私にはさっきまで死の瀬戸際だったというのにそれを忘れてしまうほどの力を得たという高揚感とそれを冷静に考察できる澄み渡った心が同居している。 なにか法に反する薬物なのではないだろうかと考えてしまうような効能だ。 これを飲んだナコちゃんたちとならあのフランスパンの化け物だって倒せる気がしてくる。

そうやって体力を回復させた私たちはフランスパンの化け物を倒しながら西剛理羅君の家へ向かって走り出した。