クロワッサン教の集結から数分。男はクロワッサン教本部を後にし、逃げていた。

「冗談じゃねぇ!いくらこんな状況だろうとわけもわからず殺されてたまるか!」

男の名は有明 若月(ありあけ わかつき)。彼はクロワッサン教信徒でありクロワッサン教の生き残りの一人だった。

 

彼は、18歳でクロワッサン教に入信、その後7年クロワッサン教を信仰し続けた。そして今、世界がフランスパンに包まれ、クロワッサン教が壊滅しかけ、黒輪が不思議な呪文を唱え空が裂け周りの同志がバタバタと倒れていく中、有明の心が、信仰心が濁った。

俺はこんなわけのわからない終わり方を迎えてもいいのか?

彼は昔からタダで終わることだけは許せない質だった。

遊びでも仕事でもなにであろうとそうだった。その思いが信仰心を上回った。

「こんなところで死ねるか!」

有明は倒れ行く信徒と黒輪を置いて駆けだした。

「どこへ行く!」

黒輪が叫んだ。

有明は無視して走り続ける。

「チッ!追え!」

「ハッ!」

信徒が有明を追って駆けだした。

 

「ハッ、ハッ」

有明が町まであと1kmほどの地点にたどり着いたころ。

ガサッ!

後方の森から音が聞こえた。

「でてこい!いるのはわかってるぞ!」

返事はかえってこない。

「ならこっちから行くぞ!三日月の輪舞(弧描くクロワッサン)!」

有明の手から放たれたクロワッサンが弧を描き森へと飛んでいく。

 

ガサガサッ!

 

(おかしい。クロワッサンが戻ってこない?)

有明が異変を感じたのもつかの間森の中からフランスパンの怪物が現れた。その右手には赤い血がついていた。

「嘘だろ!?」(こいつ追ってをやったのか!?)

「畜生!」

有明は町へ向かって再度駆け出した。