真祖

深い、深い海の底。光の届かない暗闇で私は浮遊感に包まれていた。 ああ、これは夢だ。と自覚する。 いつもの夢。ただ意識だけがあり私を拘束する重たいモノ。

だんだんと意識がはっきりしていく。 そうだ、クロワッサン過激派の男たちに先生が襲われて...... 皆を守るために人の擬態を解いて戦ったけど 結局力を制御しきれずにみんなを傷つけてしまったんだった。 己の無力さが恨めしい。

ここで自分の肢体が力を取り戻していくのを感じる。 目が覚めるのだ。 きっと私はもう高専にはいられない。 私が、弱かったせいで。

親野さんと一緒に帰る約束、守れなかったな......

体の感覚が普段と異なることを訝しみながら私の意識は現実へと戻る。 これまでも真の肉体が変成を遂げたときは似たような感覚だった。 また、自分の力の制御が大変になるなと思いながら目を開けた。

そこは、私が想像していたどれでもない空間。 人間として医療室でもなく、 化け物として檻の中でもなく、 ホムンクルスとして培養液の中でもない。

広い、広い、果てのないように感じられる、 私とソレ以外何もないように感じられる空間。 夢から覚めてもまた夢の中。 私はどれだけ現実から目をそらしたいのだろうか、 と自嘲したくなる。

しかしこれは私の夢ではないことははっきり断言できる。

私の目の前にある、ソレ。

血の滴る肉塊と肉塊をぶつけ合い張り付けたような醜い姿。 細胞分裂を早送りで見ているかのような増殖をしている。 ぶくぶくと泡立ちそこから新たな肉が生えてくるのだ。 そしてそれは自身を支えきれないかのように剥がれてぼとぼとと落ちていく。 どこへ?わからない。私もその肉塊もこの空間に浮かんでいるように感じられる。 だたその体積を増した肉塊がある一定以上の体積にはならないように崩れ落ちていく。

しかしその禍々しい肉塊が私と近しいものであるということだけは本能で感じ取っていた。